時計の中のこびとたち/佐々宝砂
その日はクリスマス・イヴだったので残業がなかった。イヴをひとりで過ごさなくてはいけない彼は残業をしたいと上司に申し出たが、上司は笑って言うのだった。
「なあ、君、折角のクリスマスなんだから帰れよ。それともなにかい、クリスマスをひとり淋しく過ごすのはいやかい。だったらこのあいだ写真を渡しただろう、わたしの姪っ子だがね、来年二十五になるんだがね、いい子だよ。今度会ってみないかね」
彼はこれまで見合いをしたことがなかったが、これからする気もなかった。それで彼は丁重に断りをいれ、とぼとぼと家路をたどった。街角にはクリスマス・ソングが流れていた。
彼の住まいは小さなアパートの一室である。彼
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