吉本隆明『芸術言語論』概説/石川敬大
 
推する力、飛躍力や直観力には敬服するのだが、この強引とも思える恣意に基づく展開は難解で手強いものだった。

 最後の四章は『芸術の価値』、言ってしまえば芸術は、文明的価値や経済的価値をもたない。「自己表出と自己表出とが出会うところにしか求められない(略)偶然以外には、芸術は価値を共有することも否定することもできない」ものであるらしい。経済学の原理である労働価値論で言えば、「(作品に手を加える時間の)労働価値を増せば増すほど良い作品ができる」わけではない。むしろこういう「近代初期の見方(価値観)は危うい」と吉本は指摘する。状況論的に言えばそれは、近代初期の問題ではなく現代や現在においても同じだ。
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