おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
な暗黙の了解あったよね。あった。だってあなたのご両親はもうあっちには住んでいない。関東に来ている。帰る家はない。そんな話を何回もしたよね、微妙な哀感を込めてさ。『南原くんが指摘してくれて気づいたよ、ぼくは根こそぎ、なんだってさ』とか。でわたしもあの町から出たいみたいな話してたじゃん。それらはもう割とガチでわたしたちはこっちで暮らす的な一連のライフスタイルを想像するに足る要素だったよね」
「そうかな」
「そうかな? てかその『パルドン?』的な目、やめて」
彼をにらみつけたままだから周りの人間がこちらへと注意を向けたかどうか明瞭としないものの、たぶんはじめからあっただろう談笑のざわめき、上品な
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