おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
年生、つまりわたしが大学に入ってはじめてのクリスマスイブに東京へ行ったときのケンカだ。
「就職はそっちでしようと思って」
と彼は言った。二秒くらい絶句したが、その間になにもかもを理解したつもりになって、
「あざとい」
とわたしは言った。なにもかもを込めて彼をにらんだ。ひとつには、このワイン!
「は?」
いらいらする。これでわからない鈍感さがわざわざ言葉をつむがせる、けんかを発動させる、それはあなたのせいだ、と思う。もうひとつには、このおいしいタンシチュー、てかスケジュールぜんぶ!
「だから、あざとくない? っつってんの。まず、あなた、つまり佐伯さんの就活はこっちでやるみたいな暗
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