おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
 
うが明らかに悪いケースでも手を上げるなど考えられなかったし、そのような雰囲気はわたしの増長・際限のないわがままを育み、嗜虐的な感情を働かせたのはもっぱらこちらであった。教育者として恥じるべき口吻・攻撃を浴びせかけられても、女性への暴力などもってのほかといった様子で、彼は言葉ですら恫喝・罵倒は避け皮肉にとどめていたものだ。
「きみが首都に出なかったのは賢い選択だったと思うよ」
とか、
「いまのはほんとうにオリジナルな指摘だね。(わたしの知らない外国人の名前)も独自性が大事と言っていた気がするしね」
 とか。いなくなった今になって、それぞれの場面が鮮明に思い出される。たとえば 、彼が大学三年生
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