おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
 
?」
「ちょっとね」
 と言うなり佐伯さんは振り返って背後にいたわたしの頬を打つ。
パァン、とすばらしい音がする。
 わたしはとてもうれしくなって彼につかみかかる。首を絞める。指を取られて剥がされる。その力の具合は決して弱くなく痛いものだったが、骨が折れないように気を使ってくれていてやさしかった。おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ。その途端に彼は吹っ飛び倒れてしまう。朝倉さんからタックルを食らったのだ。ホモ的な過去を持つだろう佐伯さんはまんざらでもないのかもしれないなと思ったけれど、案外に嫌そうな顔をしている。ふつうであればこのままマウントポジションに移行して殴り続けるのが常道
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