おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
は安心していいというのに。
「ひさしぶり」
佐伯さんは微笑むだろう。
「いまさらどうしたっていうの?」
「いや、ちょっと忘れものを」
「帰って!」
だが、わたしはもうドアを開けてしまっていて、だからこれからの成り行きも想像がついている。佐伯さんはいつものように靴を揃えて脱ぎ、廊下を進み、彼を発見するだろう。そして、部屋が自分の知っている感じから様変わりしたことにちょっと驚きつつ言うのだ。
「はじめまして。佐伯といいます。きみは朝倉氏だね」
朝倉さんはタオルケットにくるまったまま面食らっている。
「いや、きみはもう朝倉氏から朝倉に格下げだな」
「いきなりなんなんすか?」
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