おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
 
っているぞ、これはジョー・ヘンダーソンだ。宮下さんに教えてもらった。
物知りな女の子だ。ぼくは微笑む。
「てか、そこ、そこ」
「え?」
 Tシャツの左脇腹あたりにも血の染みが広がっていた。そういえばさっきから酔いのしびれがこの辺に集中しているような違和感があったな、自転車を飛ばした夜風が気持ちよかったからあまり気にならなかったのだけれど、まったく、酔っぱらいの行動は予想できたものじゃない。
「いいよ、かすり傷だよ」
「そうじゃないでしょう!?」
 いきなりの叫び声にちょっと面食らってしまう。今夜のこと、ぜんぶ話さなくちゃいけないのか? ごめんだなあ、ほんとうにめんどうだし、後々もめん
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