おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
泳いでいる。壁にはミュシャのポスターが額に入れて飾ってあり、ベッドはいちばん奥でこれを乗りこえなければベランダに出られないのだった。とりわけぼくを思わせるものはもうない。宮下さんの後ろからそれらをすべて確認した後、朝倉氏は、
「おお、ミスブランチだね」
と言う。
「そうだよ、かわいくない?」
と宮下さんが答える。
「かわいいね。はじめまして。朝倉久志といいます」
ピンポーン。実家住まいのときは別室にいる母が気づくのかどうか心配するほど頼りなげだったのに、いまでは鳴るたびにビクッとしてしまうほど大きく感じるな、とか思っていたらまた鳴る。センター試験の出題傾向について熱弁をふるっ
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