おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
ンを押す。
「はい」
「ちっす」
「ああ」
ぼくはこの、機械で少しバイアスのかかった「はい」と「ああ」が好きで、買い出しから帰ってきた際にもしばしばピンポンしたものだった。なんで? と問われてもほんとうのことを言ってしまうとうざがられるのが嫌で首をひねりながらだってあれじゃん、みたいにごまかすのも楽しかった。宮下さんが出てくる。珍しく髪をポニーテールにまとめている。身体からさわやかにバラのにおいがただよってくるのだ。
彼女の部屋は典型的な1Kの間取りで、居間に入ってすぐ右にノーパソを乗せたデスク、中央にはこたつ、左に小さな本棚とラックがならび、その上に金魚鉢があってミスブランチが泳い
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