おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
ていた。
背後ではミスブランチが餌を食べている。棚の上の水槽のなかでゆるゆる動いて活発ではない。あまりわたしを見ない。顔を寄せても尾を向けられてしまう。
もうすぐ朝倉さんが来る。掃除したほうがいいかな。
脇をかいでみる。かなりくさい。
エレベーターが止まり、酒類とつまみの入った袋を片手に朝倉氏は歩き出す。もともと細い目と耳と口をさらにきりっと引き締めて緊張しているのかもしれなかったけれど、ひげのつるつるに剃り上げられたあごがどちらかといえば期待感をあらわにしていると思いたければ思ってもよかった。五○七号室、宮下さんの部屋の前 で立ち止まり、ふうっと息をついてインターフォンを
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