おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
 
る。あいまいな笑みだ。佐伯さんも笑みを作る。それはとてもすてきな笑顔だ。何度も何度もわたしをほれ直させた笑顔だ。
「もうきめてんだろ? おくすり」
「ああ」
 と深沢は言う。首を縦に振ってしまう。すぐ後にはもう佐伯さんの拳が飛んでいる。したたかにあごを打たれた深沢は酔いもあいまってバランスを崩し、ベッドへとうつぶせに腕をつく。その側頭部を佐伯さんに蹴り飛ばされ、今度はあおむけに転がる。
「じゃあ警察は呼べないね……」
 とつぶやいて佐伯さんはさらに脇腹へ蹴りを入れる。倒された缶からビールが流れ出し、マットをにじませていく。
「いたい、いたいよ」
「静かに。舌、かむだろ」
 顔面に鉄
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