おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
の乾杯をする。
「うめえな!」
「そんなにか」
佐伯さんは怪しさを感じている。さっきから深沢は自己愛に満ち賞賛をとうぜんのものとして受け取る彼に珍しく自分へとおもねっている。すると深沢が真っ黒なシーツを手の甲でなで始めた。
「ここできのう、川上さんと寝た」
「なるほど」そういうことか。
「荒木さんとは?」「寝ない」「ぼくは寝たよ」「うそ言うな!」
おまえにそんなことができるわけがない、とでも述べるかのように深沢は苦笑し、缶を床に置く。目が据わっている。トイレから戻ってきたときからだったかな、と佐伯さんは思う。あのときね。すばやい所作で深沢が佐伯さんに近づき、両肩をつかむ。力を込め
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