おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
 
ールの缶を振っている。祖父も父も弁護士であるという彼の家は経済力も豊かで、いま飲み直している十畳ワンルームのマンションも彼の家が所有しているおり家賃を払う必要がない。三十歳までに公務員試験に合格すれば、あとは自由にしていいという話だ。ダメでもうちの不動産を管理していればやっていける、みたいな。
「いや、長かったよ」
「なにが?」
「むかしからきみはおれの作品を認めることはなかったからさ。やっとほめられた。報われた」
 べつにぼくに向けてマンガを描き続けていたわけじゃあるまい、と言う代わりに佐伯さんは向き直り、足下に投げ出されていたまだ開けていない缶をひろってやや乱暴に投げつける。三度目の乾
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