おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
たしたちの高校だ。なんの変哲もない校舎とグラウンド、できばえは中の上といった感じでだいたいが5であった美術の成績を踏まえると満足がいかない。けれどしかたない思いもある。細かく字も汚いからこそ注視してしまう彼の記述を見えなくするためにふだんなら必要ない線までも描き込まなければならなかった。かつて彼はわたしが大学の授業中に何気なく教材プリントへスケッチした教授のバストアップをほめてくれたことがある。
「かわいいね」
ひとむかし前の少女マンガ調にデフォルメされた禿頭の中年は乙女チックな恋心を抱いているように目を閉じて微笑み、胸の前で腕を交差させて人差し指と中指を立て、
「ゴールデンフィンガー」
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