おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
そうとするかのような、あるいは使いこなせないフランス語を知ったかぶっているような調子は、単に高校時代の思い出を年月がもたらした感傷の麻痺みたいなユーモアを込めて語るよりも頑なに≪あのころの絆≫を突き詰めてくるものであった。退いてしまいながら興味深げにあいづちを打つ者、法学部卒だてらに逮捕された場合の懲役を語る者、われ関せずとばかりに極楽町と自分の彼女へ思いをはせる者がいた。やがて夜も更けて佐伯さんが三度目の小便へ立つと藤枝がついてきて小声で語りかけるのだった。
「さっきの話のあれなんだけど、どうだ、やってみん?」
「いいえ」
五ページ目は文章ではなく絵で覆った。ボールペンで描いたわたし
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