おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
 
腕毛まで茶に染めており、時計の帯が桃色で目立った。デニムのダメージが激しい。佐伯さんの論ではこの市街の住人のファッションは東京より二年ほど遅れていて、プラスアルファなにかしら地方都市独自の印象を与えようと躍起な感を与えるのである。彼自身はユニクロ一式といとこのお下がりでかためている。そして全員が歳をとっていく。
「あとは荒木だけだな」
 五分遅れで荒木がやってくる。交差点の向こうから、一六八センチにヒールを履く割に小股で走ってくる。
「前田くん結婚したんだってね!」
 と言う。あいつか、と佐伯さんは思う。二時間のカラオケを楽しむ。そして飲みである。安さと迅速な対応でおなじみのチェーン店で乾
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