血まみれの夜/岡部淳太郎
 

その時にいくつもの傷をつくって
血を流したものではないのか
そう考えると 目の前にある夜が
私というひとりきりの身に見つけられ拾われたのも
何かの因縁であるかのように思えてきた

夜は息をしながらも動かず
変らずに目の前にあった
夜はひとつの物として現れながら
私ひとりの場に持ち帰ることによって
微妙にその性質を変化させているようであった
これは何かの呪いか
あるいは祝福であろうか
夜が物体(もののけ)として落ちている世の中。
そんな世相を怨む理由などあるはずもなく
私は目の前の夜が 自分自身と
抗いようもなく一致してゆくのを
ただ黙って見ているだけだっ
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