踊り子/はるな
れを開いたときにはしまったなと思った。僕はがんらい地味をこのむ人間なのだ。「ドガの踊り子よ」と彼女は言う、「彼の描いた絵の中で一番好きなの」「ドガ?」「絵描きの名前。もう死んでる」
ねえでもこうするとほんとうに踊ってるみたいよ、どう?と、部屋の真ん中に立ち傘をひらきくるくる回すと、彼女の背の照明が丁度色を透かせて万華鏡のようにちかちか光る。万華鏡だ。なんだか懐かしい気分だと言って笑うとそれはぴたりと止まって中から彼女が出てきた。ぼくはもうだめだと思った。
「あなたなんだか濡れてるわね」
「誰かがこの部屋で濡れた傘を振り回したみたいなんだ」
「ひどいわね。きっとその誰かはあなたの服を脱が
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