踊り子/はるな
 
脱がせたがってるのよ」

物事のあとで彼女の淹れたインスタント・コーヒーは不思議に濃く美味しかった。「コーヒー代の元は取れたわね」と笑い、慌しく外へ出れば雨は上がり、かわりにどこまでも白く重ったるい曇り空が寝そべっている。連絡先を書いた紙を渡そうとするとその裏に何かを書つけ僕に突き返し走っていった。待って、と叫べばもう小さくなった彼女が向うから「またね!」と返す、紙には「ドガ、踊り子」と殴り書きが残り意味がわからない。「待って!」ともう一度叫ぶ僕を往来の人々は何事かと振り返り、雨上がりの街を彼女は走っていく。それはさながら踊り子のような後姿だった。


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