魚とバナナとラクダの話/こうだたけみ
も褒められて面喰う。その横でバナナはどんどん熟していくが、どうしたことか、渋いにおいを発している。
彼の首にまとわりついてわたしはいい気分だ。そんな気分をぶち壊しにするのは、プロレスの技をかけられた人がする合図。ギブ、ギブ。わたしは彼に丸められたいのに、わたしの尖った顎の先は、彼の頸動脈に刺さって血を止める。
魚を腰にぶら下げて、腰を魚にしたような気持ちでこの通り下ってくると、彼はやってこないで、わたしはスイスイと歩いてゆく。
コタツの上に置いたお豆腐みたいな携帯電話が青白く光って、照らされるバナナは部屋に帰ってきて一番に正座して眺め入りたいほどキリンのようだった。
ラクダ
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