こわれた護岸をなおしています/木屋 亞万
積むようにして護岸工事をしているのだろう。
こわれることによって失われた護岸と、その修復。つまり彼は「喪失と再生」を、絵を通じて何度も何度も経験しているのだ。この言葉が繰り返されるたび、彼は護岸がこわれている現実と向き合い、今度こそ「こわれていない護岸」になるように「なおす」作業を続けているのだ。
最後にひとつ申し添えておくと、護岸をこわしているのもまた彼自身だ。彼は花瓶のカサブランカのつぼみが花開くたびに、几帳面にそのおしべの葯を取り除いていた。白い花弁に花粉を撒き散らす雄蕊の葯が、彼の美学に反するらしかった。彼は水が流れ込む機会を、護岸によって奪っている。水が陸地へ流れ込もうと
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