こわれた護岸をなおしています/木屋 亞万
 
うと、護岸をこわすたびに、彼はこわれた護岸をなおした。それは水と陸との交わりを、その均衡を保つために阻止することに他ならなかった。護岸も、水も、陸も、彼そのものであり、彼は絵を描くことによって「こわれた護岸をなおし」、心の均衡を保つ。それは同時に彼自身の生命力を、芸術を通して去勢することになっていたのかもしれない。

「こわれた護岸をなおしています」
 その底知れぬ苦悩は、絵を観る者にも、言葉を聞く者にも、恐らく伝わることは無いだろう。

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