こわれた護岸をなおしています/木屋 亞万
頭しながら独り言のようにそう言ったのだ。
彼は目の前にあるものを絵に写していった。私と彼は目の構造が違うのか、あるいはひどく捻くれたフィルターを通しているのかは分からない。彼の描く絵は、線という線がうねり尽くしていた。その一本一本の線の短さゆえに、辛うじてその輪郭を描き出している絵が、そのキャンバスには立ち現れていた。そのうねりには、想像を絶する重圧によって歪んだ心と、線としての長さを保てぬ一筆ごとの苦悩が、表現されているように思えた。彼の心で渦を巻く行き場のない生命力が、絵という鏡に映されているのだ。
「こわれた護岸をなおしています」
私にはたしかにそう聞こえる。彼の絵を描くときの
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