カイダン/リンネ
段をのぼっている。これはKの物語だ。物語というのだから、それはもちろん恨みつらみの話になるはずだ。他人の幸せ話など語る必要があるか? Kはまだ階段をのぼっている。かれこれ数時間だろうか、数日間だろうか、はんぺんのようなしろい頬に青いひげが成長している。目筋には涙の跡が。この男に何があったのか。スーツはこぎれいだ。しかしだまされないようによく見てみれば、背中に汗のシミが黒く広がっている。呼吸は異常といってよい程度に遅い。息をしてないとも言える。K以外、階段をのぼるものも、おりるものも見当たらない。ここは公営団地のアパートの階段だ。折り返し折り返し、上へと続いている。さみしい、つめたいような弱い風が上
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