辺見庸『眼の海』を読む/石川敬大
 
なら、詩や詩にしようとする事柄への思いの深さがよく読者に訴えかけていたのかもしれない。だから読後の印象として、圧倒的な存在感、筆力ゆたかな力感があったのだろう。彼には、文字で訴え得ること、言葉への揺るぎのない信頼性も、心的背景にあるのかもしれない。詩の形式に不慣れゆえの荒々しくゴツゴツした語感がマイナスにならずに個性になった。魅力になった。彼のライフワークとしての社会や国家に対する疑惑や疑念が、詩作品では同時に、私的に内向して、おのれの内部の癒されない傷痕に無骨で粗野な指先を触れさせ、あまりの痛さに呻き喚いて、呪詛が祈りになり願いともなって、読者の前に無造作に投げ出された。そんな読後の甘みのない苦
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