辺見庸『眼の海』を読む/石川敬大
見の痛恨の思いが伝わってくる思いがした。そんな辺見の詩作品のなかでも、故郷で過ごした風景や知人・友人・親戚の記憶の断片や切れ端が登場し、だからこそ神話的で叙事詩的、短編小説のようでもある散文で書かれた詩作品『赤い入江』の詩的世界は、まさに彼の脳内に現出したミクロコスモスであり、故郷の真の姿のデフォルメでもあった。脳内だったからこそ故郷は、現実ではありえない自在な姿をして現出したのだと思う。以下に、一連目と二連目、それから最終連を引用する。
かつてこの世にナンチ(Nanchi)というひとつの場所があった。世界でそこだけにしかない、ひとつのナンチだった。
ナンチは未来になにも約束さ
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