辺見庸『眼の海』を読む/石川敬大
 

  浜菊はまだ咲くな
  畔唐菜はまだ悼むな
  わたしの死者ひとりびとりの肺に
  ことなる それだけのふさわしいことばが
  あてがわれるまで

         『死者にことばをあてがえ』全編より


 それらのほかには、ひとと圧倒的な物品たちの平等な日常に言葉を与え静かに語らせたかの詩作品『常の壁』、空間の記憶に言葉をあてがった詩作品『それは似ていた』、また詩作品『わたしはあなたの左の小指をさがしている』のなかの「解かれたモノたちの割れ目が黒々とむきだされる」という箇所や、「黒いカモメたちがつぎつぎに石化して/空からふってくる」といった詩行に、被災地に注がれた辺見の
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