屠殺場/草野春心
 
折耳を奪われ
  自分が何か誇り高く
  劇的な人間であるような気になる
  そして同じ程度に、自分を
  何所までも低く貶めてもいた



  だがその日、
  いつもの場所に
  男の椅子は見当たらなかった
  正確に言うと、椅子はあったが
  そこにはすでに何かが座っていた
  ランタンを近づけてみると、
  座っているのは一人の女だった
  見覚えのない、蒼白い顔をした女は
  痩せたその胸に溜め込んでいた
  永遠のような長い息を吐ききると
  固くなり死んでしまった



  男はその女の遺体を
  どさりと床に引きずり落とし
  服を全
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