祈りの船/サイン・アウト/茶殻
 
をすぐ貼り付ける
僕のように溶ける生物をラッシュアワーに探すOL
のハンドバッグから口紅を盗んで
僕はそれをポケットに入れる
東武線には色気がないんだと言って
ホームに降りた僕はその紅を
OLの(乾いた)唇の曲線に抉れたスティックを
走り出す車体に強く押し付けて
それを愛そうとしている
のに
抱きしめる前に無表情に僕のもとを次々と去っていく

学問としての美学、エステティークは
枝分かれの果てに皮膚を突き破り
指先から滴る血液を纏ったところで
東武線と交わることなどできやしない
と僕は思うのだが
僕はまだその場所で御馳走を前にするように
埃に煤けた指を舐めている
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