春のタクシー/nonya
取るに足らない枯木に
カシミア混の古いコートを着せて
目抜き通りのほとりで
タクシーを拾おうとしていた
通り過ぎていくのは
回送の名札を得意気につけた
ハイブリッドな北風ばかり
手袋をなくした枝先が凍りつく
入射角35度の陽射しが
ためらいがちに背中をさすっても
コートの中の口下手な枯木は
芽吹く気配すらないけれど
車道に投げ出された影は
辛辣な風に何度も轢かれながらも
暖かな季節の予感に
控え目に揺らいでしまう
タクシーは相変わらず捕まらない
言の葉を散らせてしまった枯木の前で
ドアを開けてくれるタクシーなど
あるはずもないけれど
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