春のタクシー/nonya
 

待つ
それでも待つ
干乾びた幹の奥でせり上がる
微かな水音を聞きながら

待つ
ひたすら待つ
縮み上がった根っこの先端が
僅かに和らぐのを感じながら

待つ
待ちながら焦がれる
季節の最後尾を見極めようと
殊更に目を凝らしながら

やがて
埃と水蒸気を撒き上げて
春のタクシーがやって来る頃には
コートを脱ぎ捨てた枯木は
たくさんの幼い言の葉を
抱えていることだろう

そして
タクシーを拾うことも忘れて
人懐っこい風を歌い
お転婆な光を笑い
柔らかな痛みをまとった空を
見上げていることだろう



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