港/草野春心
 


  赤茶けた数艘の漁船が
  死んだように泊まっている
  コンクリートでできた堅い半島は
  港と呼ばれる寂しい場所だ
  秋の空の蒼い果てで
  透明な名も無き巨人が
  白雲の煙草を喫っているのを
  午後の海は映しもせずに
  暗く妖しく波打つだけ



  路傍に蹲(うずくま)る子供によく似た
  頑是ない姿勢で動きを止めた
  旅立つ船の無い港
  手を振る者の嘆きは響かず
  迎える笑みのはためきも
  今は虚しい風に流れて
  それなのに此処に立っていると
  塩辛く湿った吐息が
  ふっと頬を温めるから
  誰かと差し向いに
[次のページ]
戻る   Point(8)