土曜日の決闘/ただのみきや
 
つかして
先に降りるこちらが
車内アナウンスに合わせ
合図のボタンを押そうとすると
 寸前に 彼が押してくれる
彼の方を見やると 
いつも彼は
ニヤリと笑うのだ

知的障害者に偏見を持ってはいない
たぶん
ただ なぜか
バス停で彼を見かけると
いや 見つめられると
時にちょっと嫌な気分になる
彼のななめ上から見下ろすような
視線 いつも嬉しそうなところ
いつも 同じ口調で同じことを
話しかけてくるところ
悪意はないのはわかっている
むしろ好意でボタンも押してくれる
しかし心の中の何かが
反応するのだ

その土曜日も同じことが繰り返された
彼にボタン
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