土曜日の決闘/ただのみきや
タンを押させまいと
身構えて先にボタンを押そうとした
その瞬間
押された
怪訝な顔で彼を見つめる
彼は ニヤリ と笑っている
わかった
何が反応してしまうのかが
わたしはいつも同じじゃない
ときには誰とも話したくない
ひどく落ち込んでいるときもある
しかし彼は違う
いつでも同じ調子で
いつでも楽しそうで
おかまいなしに話しかけ
おかまいなしに善意をくれる
それが
憎らしいのだ
そして
彼が善意で押すバスの停車ボタン
彼は私が手を上げてボタンに触れる
その直前を狙ってボタンを押すのだ
善意を繰り出しながら
自分も密かに私にボタンを押させないことを
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