人さらいがやってくる/岡部淳太郎
や、闇の中ぼんやりと見
える遠くの山なみの姿などに囲まれた中を、あなたは
重力のように歩く。そんなあなたのそばで、北風が笛
のように鳴る。それが予兆であったことに、あなたは
気づかないのだ。
ひとつの広く長く伸びた道の上を、人よ、あなたが早
足で歩いていると、ある小さな夢が人の、それぞれの
小さなあなたの喉笛に噛みつき、食い破って、その内
部に棲みつこうとする。そしてそれは、あなたの口を
借りて、ありもしないことを語りはじめ、そうやって、
得意げにしている。冬の、頭上の大きな三角形に見守
られた道の上で、あなたと夢とこの時の、三者が並び
立ち、あなたをふいに立ち止まらせ
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