人さらいがやってくる/岡部淳太郎
 
らせる。そこまで来る
と、終りはもう目の前だ。人という名で呼ばれていた
あなたは消えて、他の人々が口々に噂をしはじめるの
だ。

年の瀬になると、人さらいがやってくる。それは重い
コートに身を包んだ、暗い顔の男であるか。あるいは、
子供のような表情の、どこにでもいそうな目立たない
者であるか。冬の寒さの夜陰に乗じて、小さな夢が小
さな人をそそのかし、頭上には満点の星空。結局、ど
んなに年老いたとしても、人はみな物事を知らぬ子供
に過ぎない。だから、まぼろしのようにさらわれて、
物語のように忘れられてゆくのだ。この年の瀬の、冬
の寒さの中、誰かが誰かを愛そうと、躍起になってい
る、その隙間から、音もなく、人さらいが忍び寄って
くる。



(二〇一一年十一月〜十二月)
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