人さらいがやってくる/岡部淳太郎
ち
が語るのはいつでも叙事的なものに限られている。そ
うして走る。走り回る。何を急いで、どこが本当の目
的地であるかもわからないのに、暦が閉じるその前に
と、あなたたちは走る。その裏で、何かが萌して、震
えながら身構えているのにも、気づかずに。
冬の暗闇は、とりわけ年の瀬のそれは、あなたたちを
盲目にさせる。暗さのために、人よ、あなたたちはせ
いいっぱいに、自らを大きく広げて、明日からの時に
備える。本当は寒さのために縮こまっていたいのに、
それゆえに、自分と同じ弱さを求めてしまいたくなる
あなたであるのに、あなたは冬の暗さへと至る風景の
中を、横断歩道の汚れた白さや、
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