路地/はるな
 
られず散る。海の匂いがするはずだった。このまま行けばそう遠くないところで海へぶつかるはずで、そうであるならすでに海の匂いがするはずだった。でもしなかった、あまりにも寒くて、寒くて、匂いまで凍り付いてしまったみたいだ。雨が降っているのに空気は鈴が鳴るようにからからと渇いていた。雨じたいも、不思議なことに渇いているように感じられた。こまかく、するどく、かなしい雨だ。海の匂いがするはずだった―鼻をすませてみる―海の匂いがするはずだった。そしてまつ毛のあたりでそのするどい雨粒を受けたときにやっと気付いた、わたしはずい分長いこと考えているのだと。もう思い出せないくらいに昔から考えている―だからこんなに寒い場
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