卵鞘のゆめ/佐々宝砂
卵鞘を尻にぶらさげて
わたくしは台所をうろうろしている
交尾した記憶はないので
卵鞘に包まれた卵は無精卵だとおもうのだが
卵鞘の内部からは
なにやら声がきこえるのであった
ああそういえば夢のなかで
と
わたくしは頬を赤らめた
とはいえ
ゴキブリであるわたくしに頬はなく
頬があったとしても
それを赤らめうるような血液を
わたくしは持たず
従って
頬を赤らめたというのは
修辞的な形容に過ぎないのであるが
それはさておき
わたくしの夢の記憶は
いささかエロティックなものを暗示しており
ある昼のそれなどは
海にして
雲にして
雨にして
つまりちっ
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