卵鞘のゆめ/佐々宝砂
 
ちっとも具体的でないのだが
とにかくかなりの湿気を含み
目覚めればあたりいちめん
しとどに濡れそぼっているのであった

卵鞘も多くの水を含むらしく
歩くたびに水音がして
水音がするたびに
くぐもった言葉もこぼれる
それは未熟な卵の溶けゆく音かもしれなかったが

卵鞘の囁きに耳をすませば
それは
わたくしとまったく同じい口調で
ひそやかな戯言を繰り返しているのであった

卵鞘に封じられたものは
日を追うごとに湿度を増すのであろう
熱を帯び
囁きを絶叫に変えるのであろう
しかしながら

わたくしにはもうどうでもよい

わたくしはただ
やがて起きるであろう洪水を
薄暗い台所のかたすみで待つのみである
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