縁側/草野春心
 


  透明なせせらぎが遥か遠くで
  岩の間をくぐり抜けてゆくのが
  聴こえてきそうな三月の朝
  いたずらな顔をして君が
  せがむみたいに背伸びをしたから
  僕たちは口づけをかわした
  歯と歯がカチンとぶつかって
  ぎこちなく笑うくらいに
  想い合うことを急いで



  脆く小さな部屋の中で
  玄関に並んだ幾つかの靴と
  埃の匂いに包まれながら
  芥子色のセーターを着た君の
  弾むような体をこの手に抱くとき
  窓の外を横切ってゆく
  翼あるものの冷たい影が
  君の左頬に落ち
  予感のように滲んでゆくとき
  僕はありと
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