はるかなひかり/水町綜助
 
いうものがどういうものかしらないが、
それをいま言葉にしろと言われるなら
この光のことをはなすだろうか

この光は
火を見つける前の
闇にちかい





夜、T市
そのひとの死んだ町
僕はそのことをすっかり忘れてしまって

ふと通りがかった街の
立体的な肌を
高台から見下ろしたとき
鼻先をかすめるほんのすこしの香り
それと
まぶたを閉じると血の赤色が感じられるくらいの
やわらかい陽の光
だれかの名前をくちにしたとき
そんな色の光だよ
とつたえたような気がした
あのつよさだけ
それだけが感じられる
そのほかは全部
あの、
いつなんだろう
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