ロマネスクの果て/済谷川蛍
くらいの時間が経ったことだろう。胸の中で、何か、兆しのようなものが感じとれた。あの場所を見据えた。まもなく、人間の腕が水面からゆっくりと浮かび上がってきた。何かを求めるように、その手はものを掴みとるような形をしていた。僕は息を呑んでそれを見つめた。腕がひじの辺りまで伸びたとき、真っ暗な闇が充満した、この世界の空と呼べるような場所が、微かに割れて、そこから目も眩むような光が放射された。数秒間、目の前が真っ白になり、そして再び目が見えるようになったとき、その空の隙間から、何かを掴もうとする手に向かって、細長い光が真っ直ぐに降り下った。直感的に悟った。あの腕は僕の腕だ! 次の瞬間、僕は水中に居て、腕を水
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