ロマネスクの果て/済谷川蛍
 
になった。とそのとき、そう遠くない場所で、巨大な何かが、勢いよく水面から飛び出した。クジラだ! 巨体を豪快にひるがえして白い腹を上に向け、水面に背中を叩きつけるように着水し、その反動で水飛沫が辺り一面に飛び散った。僕はその迫力と、クジラから漲る生命力に、圧倒的なものを感じた。波が僕のひざを強く打ちつけた。そしてまた、静寂が訪れた。しばらく、静寂が続いた。時間としてはそんなに長くないのかもしれない。しかしまるで、永遠にこのままであるかのような、そんな絶望感や虚無感が、この世界を支配しているように思えた。それでも僕は闇の向こう側―――クジラが着水したあたりをジッと見守っていた。


 どれくら
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