ロマネスクの果て/済谷川蛍
もぐった辺りから、パタパタとトビウオが飛び出して、五メートルほど宙を舞った。身体の表面を青光りさせたトビウオは、水面へ斜めに滑り込んだ後、二度と現れることはなかった。僕は、暗闇の中に露出した小さな足場の上に、一人ぽつんと立っていた。キュゥキュゥと、愛らしい動物の鳴き声が響いた。薄暗い闇の向こう側に目を凝らしてみると、ちょうど、一匹のイルカが無邪気にジャンプした。僕は恋しそうに手を伸ばした。しかしそのイルカも、一度姿を見せたきり、二度と暗い水面から浮かび上がってくることはなかった。不安、鬱屈、孤独、焦燥……。漠然としていた胸の中で、次々と沸き起こってくる暗い感情。僕はその場に屈みこんでしまいそうにな
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