ロマネスクの果て/済谷川蛍
うな冷たい音が鳴った。
*
文学の色は黒。血の混ざった黒である。本のタイトルはすべからく「不実」である。なぜ、無理をして本を読むのだろう。甘美なる英傑の名を、胸に刻み込みこむためだ。無名の名を刻んでもしょうがない。
僕は3か月前に33歳の若さで10階から飛び降りて死んだ文芸仲間のことを思い出した。
「いきなり10階から飛び降りるなよな」
せめて1度目は失敗しろよ、と思った。飛び降りたのは運だめしの気分もあったんじゃないかと疑っていた。もし、こっから飛んで生きていたら、なんて…。
「だが10階からは無茶だろ…」
コンビニで買った缶チューハイを飲む。自分は本当に80
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