ロマネスクの果て/済谷川蛍
 
に自責の念に脅かされていた。絶望という季節があれば、僕の胸の中がそれだろう。もう僕は彼らのように、この世界を甘受することが出来ない。彼らの世界を汚してはならない。たとえ僕の世界が、何の価値もない紙きれであったとしても、彼らを羨んでその世界に闖入してはならない。
 「人は自分が愛するものと同じ価値しかない。僕は、価値のない人間だ」
 僕はニヒルに笑った。しかし目は剣呑だった。
 「価値のない人間だ!」
 喧騒と活気の密度が減っていき、人々が散り散りに分かれていく。そのうちの1つが自身の帰り道である。自分だけの居場所に着く。静まり返ったアパートのドアにカギをさして回すと、冬の空気で凍ったような
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