ロマネスクの果て/済谷川蛍
 
きたいことがあるかと言われたが、特に何も思いつかなかった。
 僕はプラットホームの端っこで深いため息とともに2本目のタバコを吹かした。ダッフルコートを着た美少年が目に入った。スベスベした白い肌に、口紅でも塗ったような艶っぽい唇が女の子のようだった。思春期特有の物憂げで悲壮な眼差しをどこかへ投げかけている。寒そうに手袋をこすり、まるで青空に薄化粧を施す大気のような白い息を吐いており、目に映るものの中で唯一清潔な存在だった。その優美な姿を遠慮なく眺めていると、少年の視線がパッと僕のほうへ向いた。僕は目線をそらすどころか、彼の顔を正面から仔細に観察した。顔の詳細を見ても、驚くほどの可愛らしさだった。
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