ロマネスクの果て/済谷川蛍
。
電車が甲高い金属音を響かせながら止まる。僕は少年のあとをつけ、暖房の効いた車内へ乗り込んでいく。入口の、少年の隣に陣取った。扉が閉まり、電車が発車する。乗客たちが揺れるのに合わせ、手の甲で少年のダッフルコートに触れた。僕は少年の詳細を知りたかった。
「好きな子はいるのか。告白されたことは?」
少年は文庫本を取り出して読んでいた。ブックカバーがかけられていたが、後ろから覗き見るとどうやらライトノベルらしかった。僕はずっと少年の横顔を見つめていた。あまりに露骨だったために、もし誰かが僕に気を留めればすぐにそれとわかるくらいであったが、どの乗客も携帯電話やおしゃべり、仕事から解放された虚
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)